雨風食堂日記【甘味処 川越 あかりや店主の日々雑感】

2007年3月25日(日)

城山三郎さん逝く


作家の城山三郎さんが亡くなりました。

学生のときに読んだ、本田宗一郎さんをモデルにしたといわれる自動車産業界を舞台にした「勇者は語らず」という小説に感銘を受けたのを思い出しました。

作中の話なのですが、主人公の自動車部品メーカーの中小企業の社長が2~3泊の自己啓発セミナーに行きます。気がのらないまま山中のセミナー会場に出向くのですが、そのセミナーが変わっていて、会議室に参加者数人が同室となるのですが、セミナーが始まっても、だれも何の課題を与えられないのです。まわりは見ず知らすの人間ですから、何もしゃべらないまま数時間が経ちます。ふだん時間に追われている主人公のような社長や管理職たちは次第にいらだち、「こんなことをしていていいのだろうか」と思い始め、セミナーの意図を探ろうとします。それでも主催者側は何も教えてくれない。そうすると、そのうちのひとりが進行役を買って出て、自分の生い立ちの話や悩みをこぼし始めたりします。参加者の中にひとりだけ学生風の若い男がおり、その話に対して冷めた発言をするのですが、それがきっかけで議論が始まります。しかし、皆「これは仕組まれているのではないか」、「この若造は実はサクラで、対処の仕方を見られているのではないか」と疑心暗鬼の心理戦が繰り広げられるわけです。

結局そういった無駄のように思える数日のセミナーでも参加者の中に心理的な絆が生まれて、ちょっとした感動的な展開もあったと覚えています。カンバン方式の中、苦労する下請け企業の社長を描いた作品でしたが、経済小説で知られる城山さんは作品の中でそういった実業の世界での群像劇を書くことによって人間の美学みたいなものをとらえていたように思います。

時代はバブルの前でしたが、拝金主義とは一線を画する感じで、わたしは学生でしたがビジネスマンにとても憧れる小説でした。

甘味処 川越 あかりや

Share Button
    LINEで送る
Filed under: 未分類 — 店主 @ 1:12:20
トラックバックURL : http://www.amekaze.kawagoesansaku.com/archives/250/trackback
                       

コメントはまだありません »

No comments yet.

RSS feed for comments on this post. TrackBack URI

Leave a comment

//

Powered by WordPress